4. Phase I: 術後 0〜4週(保護期)
水平断裂(複雑断裂)3針縫合 — 追加制限
水平断裂は複雑断裂として分類されるため、安定した縦断裂よりも保守的なプロトコールが必要です(EU-US Consensus 2024)。
- 荷重制限を4〜6週間継続 — 圧縮荷重が断裂部を離開(distract)させる方向に作用するため
- 屈曲90°制限を4週間維持 — MD許可があるまで超えない
- 能動的ハムストリング収縮を避ける — 後内側関節でのハムストリング張力が修復部に負荷をかける
- 荷重位での深い屈曲を6週まで禁止
- 4週時点で完全伸展未達なら主治医に連絡(MGH半月板プロトコール)
最重要目標:完全伸展(0°)の獲得
術後の最も一般的な合併症は伸展喪失です。伸展喪失は跛行・大腿四頭筋弱化・膝前面痛の原因になります。伸展に直ちに取り組むことが極めて重要です(UCLA)。術後3週で伸展不足(-15°以上)が残るとcyclops症候群リスクが2倍以上になります(SANTI 2020, n=3,633)。
「Day 0から伸展0°目標」の現実的な意味
プロトコールの「Day 0から完全伸展を目標」とは「Day 0に0°を達成せよ」ではなく「Day 0から伸展獲得のエクササイズを最優先で開始せよ」という意味です。痛み・腫脹がある術直後に0°は達成できません。
伸展獲得の現実的なタイムライン
| 時期 |
現実的な伸展角度 |
位置づけ |
| 術後0〜3日 |
-15°〜-25° |
痛い・腫れてる・伸びない。正常。ヒールプロップ等を開始する |
| 術後1週 |
-10°〜-15° |
少しずつ改善。改善傾向が見えればOK |
| 術後2週 |
-5°〜-10° |
大半の人が「あと少し」の段階 |
| 術後3週 |
0°〜-5° |
ここが分岐点。-15°以上残っていたらcyclops症候群リスク2倍以上(SANTI 2020) |
| 術後4〜6週 |
0°達成 |
遅くともここまでに。4週時点で未達ならMD連絡(MGH半月板プロトコール) |
ヒールプロップは「痛くてできない」エクササイズではない
ヒールプロップは重力だけで受動的に行うため、推定NRS 1-3程度。筋力を使って押し込むエクササイズではなく、リラックスして重力に任せるだけ。痛みが強いときでも実施可能で、最も重要な伸展獲得手段です。プローンハング(うつ伏せ)はNRS 2-5でやや不快感が強いため、まずヒールプロップから始めてください。
毎日のルーティン
1. 足関節ポンプ(Ankle Pumps)
回数: 20回 × 1日数回(起きているときこまめに)
足首を上下にゆっくり動かす。血流促進・DVT予防・腫脹軽減。ベッド上でいつでもできる最も簡単なエクササイズ。
2. ヒールプロップ(Heel Prop)— 伸展獲得
回数: 1日4〜6回 × 各10〜15分
丸めたタオルやブランケットを足首/踵の下に置く。ふくらはぎと大腿がサポートなしで浮いた状態にする。筋肉を完全にリラックスさせ、重力で膝が伸展方向へ沈むのを待つ。
覚醒中は2〜3時間ごとにブレースを外して実施(UCLA)。
注意: 膝の下にはタオルを絶対に置かない。過伸展を能動的に押し込まない。
3. プローンハング(Prone Hang)— 伸展獲得
回数: 1日2〜3回 × 各10分
ベッドやテーブルにうつ伏せになり、膝から下をベッドの端から垂らす。重力で膝が完全伸展方向へ。ヒールプロップより不快感が強いが効果的。
推定痛み: NRS 2-5。痛みが強ければヒールプロップから始める。
4. 大腿四頭筋セッティング(Quad Sets)
回数: 3セット × 10回 × 1日3回 / 各収縮6秒保持
仰向けで膝を完全伸展位にし、大腿四頭筋に力を入れて膝蓋骨を引き上げるように収縮させる。6秒保持してリリース。
目的: 大腿四頭筋のシャットダウン(関節原性筋抑制)の防止。術後最も重要な筋力エクササイズ。
うまく収縮できない場合: NMES(神経筋電気刺激)の使用を担当PTに相談。
5. ストレートレッグレイズ(SLR)
回数: 3〜8セット × 10回 × 1日3回 / 各6秒保持
仰向けで膝をまっすぐ伸ばしたまま(Quad Setで膝をロック)、脚を45〜60°まで持ち上げて6秒保持、ゆっくり下ろす。
脚が着くたびに筋肉をリラックスさせる。筋力がついたら座位でも可。
膝が完全伸展できない(ラグがある)場合はSLRを行わない。ブレース装着で実施。
6. 股関節外転(Hip Abduction)
回数: 3セット × 10回 × 1日1〜2回
側臥位または立位で、脚を横に持ち上げる。中殿筋の維持。
7. 受動的屈曲(Passive Flexion)
回数: 1日4〜6回 × 各10分
ベッドの端に座り、重力で膝をゆっくり曲げる。反対側の脚で支持・コントロール。
タオルを使ったヒールスライド(仰向けで踵を臀部方向にすべらせる)も可。
術後5〜7日で90°の他動屈曲達成が目標(UCLA)。
能動的に膝を曲げない(ハムストリング収縮を避ける)。重力と手の補助で。半月板修復があるため90°を超えない(MD許可まで)。
8. 膝蓋骨モビライゼーション
回数: 各方向10回 × 1日2〜3回
膝を伸ばした状態で、膝蓋骨を指で上下・内外にゆっくり滑らせる。膝蓋骨の癒着防止。
9. 多角度等尺性運動(Multi-angle Isometrics)
回数: 各角度で10回 × 6秒保持
膝90°と60°の位置で、大腿四頭筋を等尺性に収縮させる(膝は動かさない)。
Phase I 日常生活の注意
- 座位・臥位: 膝をまっすぐに挙上。膝の下にタオルを置かない
- 睡眠時: ブレース装着(3〜4週間)
- 歩行時: ブレースロック + 松葉杖
- 階段: 上り=非術側が先 / 下り=松葉杖・術側が先
- シャワー: 術後48時間後から可。浴槽・プールへの浸漬は禁止
- 運転: 処方鎮痛薬服用中は禁止
Phase I → II 進行基準
- 膝伸展ROM 0°達成
- 膝屈曲ROM 90°達成
- 大腿四頭筋収縮で膝蓋骨が上方にグライドする
- ラグなしでSLR実施可能
5. Phase II: 術後 4〜6週(初期回復期)
水平断裂(複雑断裂)による継続制限
水平断裂は4〜6週間の荷重・ROM制限が推奨されています(EU-US Consensus 2024)。部分荷重とブレースを6週まで継続します。屈曲は4週以降、MD許可のもと90°→120°へ段階的に進行。荷重位での屈曲は特に注意。ブレースのロック解除もMDに相談してから。
安定した縦断裂との違い: 縦断裂では荷重時のhoop stressが修復部を圧迫→安定化に寄与しますが、水平断裂では圧縮荷重が断裂面を離開させるため、より慎重な荷重進行が必要です。
Phase Iから継続するエクササイズ
Quad Sets / SLR / Hip Abduction / ヒールプロップ / プローンハング / 膝蓋骨モビライゼーション / 足関節ポンプ — すべて継続
新規追加エクササイズ
10. エアロバイク(Stationary Bike)
時間: 5分から開始 → 徐々に20分へ / 抵抗なし〜低抵抗
シートは高めに設定(ペダル最下点で膝がわずかに屈曲する高さ)。まず良い方の脚でペダルを回す。術側で漕げるようになったら(約5〜6週)抵抗を漸増。
「バイクは膝リハビリで最も安全なマシンの一つであり、使用量に制限なし」(UCLA)
過度の屈曲(90°超)を強制しないよう、シートの高さに注意。
11. カーフレイズ(Calf Raises)
回数: 3セット × 10回 × 1日1回
テーブル等で安定性を確保し、踵を床から持ち上げて足指の付け根でバランス。6秒保持してゆっくり戻す。
12. 腰部骨盤帯強化
回数: 各3セット × 10回 × 1日1回
ブリッジ: 仰向けで膝を曲げ、臀部を持ち上げる
クラムシェル: 側臥位で膝を曲げ、上側の膝を開く(股関節外旋)
プランク: 体幹安定性の維持
13. 両脚バランス訓練
時間: 1〜2分 × 1日2〜3回
両脚立位でバランスボード(ウォブルボード)を使用。固有受容覚の回復。
14. ストレッチ(穏やかに)
各15〜30秒保持 × 2〜3回
座位ハムストリングストレッチ(Phase I-IIでは座位のみ。能動屈曲を避ける)
立位腓腹筋ストレッチ
立位ヒラメ筋ストレッチ
Phase II → III 進行基準
- 腫脹なし(Modified Stroke Test)
- 屈曲ROM 120°達成
- 伸展ROM: 健側と同等
- MD許可
6. Phase III: 術後 6〜9週(後期回復期)
ブレース・松葉杖の離脱
6週後、十分な四頭筋コントロールと正常歩行が達成されていればMD指示のもとブレース/松葉杖を中止可能。歩行の正常化がこのフェーズの重要目標です。
継続エクササイズ
Phase I-IIの全エクササイズを継続(Quad Sets / SLR / バイク / カーフレイズ / ブリッジ / バランス訓練 等)
新規追加エクササイズ
15. 部分スクワット(Mini Squats / Wall Slides)
回数: 3セット × 10回 × 毎日 / 各6秒保持
足を肩幅に、やや外旋位。テーブル or 壁で安定性確保。臀部をゆっくり後方・下方に下ろす(膝屈曲0〜60°の範囲)。ボールを背中と壁の間に挟むバリエーションも可。
60°を超える深いスクワットは禁止。
16. レッグプレスマシン
回数: 3セット × 10〜12回
70〜0°の可動域で実施。大腿四頭筋のCKC強化。重量は段階的に増加。
17. ハムストリングカール(座位)
回数: 3セット × 10回
座位でのレッグカールマシン。立位 or 腹臥位でのプローンカールも可。
TFL/ITBグラフトではHS腱を採取していないため、HS強化に特別な制限なし(HS腱グラフトの場合は8〜10週まで遅延させる)。ただし主治医確認推奨。
腹臥位レッグカールマシンは避ける(UCLAの注意事項に準拠)。座位が安全。
18. ステップアップ
回数: 3セット × 10回(各脚)
低い段差(10〜15cm)から開始。術側の脚で段に乗り、反対脚を持ち上げる。適切なフォーム(膝がつま先を超えない、内側に入らない)を重視。
19. 有酸素運動の拡大
時間: 各15〜20分
エリプティカルトレーナー(8週〜)
ステアクライマー(8週〜)
プール: 歩行 / フラッターキック(股関節から)/ 水中ジョギング / 水中自転車
トレッドミル: 平地歩行のみ
プールの飛び込み禁止。ウィップキック(平泳ぎ)禁止。
20. ストレッチの拡大
各15〜30秒保持 × 2〜3回
仰臥位能動ハムストリングストレッチ(仰臥位受動も可)
立位大腿四頭筋ストレッチ
ニーリングヒップフレクサーストレッチ
ROM制限がある場合: 回旋脛骨モビライゼーションをPTに依頼
21. 片脚バランス訓練
時間: 30秒〜1分 × 各3〜5回
片脚立位(膝軽度屈曲)で静的バランス → 動的 → 不安定面(ウォブルボード等)へ進行。摂動(perturbation)トレーニングを含む。
22. 腰部骨盤帯強化(進行版)
回数: 各3セット × 10回
バランスボール上ブリッジ / バランスボールロールイン / ヒップハイク
ジム機器: Hip Abductor/Adductor / Hip Extension / Roman Chair / Seated Calf
Phase III → IV 進行基準
- 運動後の腫脹/疼痛なし
- 正常歩行
- ROM: 健側と同等
- 関節位置覚の対称性(誤差5°未満)
7. Phase IV: 術後 9〜12週(移行期)
継続エクササイズ
Phase I-IIIの筋力強化・バランス訓練を継続
新規追加エクササイズ
23. 片脚エクササイズの導入
回数: 各3セット × 8〜10回
片脚レッグプレス / スライドボードランジ(後方・側方)
片脚スクワット / 片脚ウォールスライド
ラテラルステップアップ / ステップダウン
ラテラルランジ / ラテラルバンドウォーク
ルーマニアンデッドリフト → 片脚デッドリフト
適切な近位安定性(体幹・股関節のコントロール)を重視。膝が内側に入らないよう注意。
24. シーテッドレッグエクステンション
回数: 3セット × 10回 / 90〜45°の範囲
90°から45°までの範囲で実施。前方膝痛を避けるため45°以上(完全伸展方向)には行わない。抵抗は段階的に追加。
25. 両脚プライオメトリクス導入
回数: 各2〜3セット × 5〜8回
まず部分荷重(PWB)から開始 → 全荷重(FWB)へ進行
メディシンボールスラム / シャトルジャンプ(両脚→交互→片脚)
両脚ボックスジャンプ / 小さいドロップジャンプ(段差を徐々に上げる)
適切なフォーム + 疼痛なしが条件
片脚ジャンプはまだ行わない(Phase Vから)。良好な遠心性制御を確認。
26. 屋外バイク
時間: 20〜30分
平地の道路のみ。トレッドミル(平地のみ)も継続。
マウンテンバイク・ヒルクライム禁止(UCLA)。
Phase IV → V 進行基準
- 不安定エピソード(giving way)なし
- 片脚スクワット10回(適切なフォーム、最低60°膝屈曲)
- ドロップ垂直ジャンプ: 良好なコントロール + 遠心性制御
- KOOS-sports質問票 >70%
- 四頭筋インデックス ≥80%(健側比)
- ハムストリング ≥80%(健側比)
- 中殿筋・大殿筋 ≥80%(健側比)
13. 疼痛管理
術後2日目のNRS 5は正常範囲(Okoroha 2016: BTB群 5.2±1.9, HS群 4.1±2.0)。ピークは術後1日目夕方。1週間でNRS 2-3、2週間でNRS 1-2に低下。
マルチモーダル鎮痛の原則(SAMBA推奨)
3時間交互の定時投与が鍵(「痛くなってから飲む」は最悪パターン)
0h アセトアミノフェン 1,000mg → 3h イブプロフェン 400-600mg → 6h ACT → 9h IBU...
各薬剤6時間間隔を維持しつつ、切れ目をなくす。
術後3〜4日間は時計を見て機械的に実施 → 痛み減少後に頓服移行。
リハビリとの両立
リハビリ30〜60分前に鎮痛薬 → アイシング20分 → リハビリ → アイシング20分。
NRS 7以上で四頭筋抑制率30〜76% → 痛みを放置するとリハビリ効果自体が低下。
NRS 6以上が持続するなら主治医に相談(追加鎮痛手段あり)。